アニサキスは悪玉界の中心部深くにある暗黒巣窟という果てしない地下道が繰り広げられる最下層に足を運んでいた。
全体が黒曜石で包まれているただただ広い空間の奥に禍々しく赤黒く呼吸をするかの如く妖艶な明りがゆっくり消えたり明るくなったりを繰り返している。
そしてその光っている場所は歪な溶岩石のようなもので出来上がった巨大な菱形の古墳のようなものだった。
古墳の一番手前、菱形の先端
そこには祭壇のようなものがあり、その場でアニサキスが跪いて祈るようにして語り掛けていた。
「蠱惑様・・・アニサキス只今戻りました。1万年も待たせてしまい大変もうしわけございません。」
それだけ言ってただ黙って目を閉じていた。
その瞬間呼吸をしているかのような光が激しくなり、古墳に光の皹(ひび)が貼り廻った。
バキバキバキバキ・・・
「ヨクゾ戻ッタ。アニサキス・・・・」
電波の悪いノイズのような声が響き渡った。
「ハハ!!!」
アニサキスは自分の不甲斐なさと申し訳なさで顔は熱くなり、その顔を見せまいと顔面を思いっきり地面に押し付け土下座した。
「オマエガイキテイルトハヨモヤオモワナカッタゾ」
「面目ございません・・・」
「蠱惑様ハ今深イ眠リニツイテオラレル。要件ハワタシガキコウ」
ノイズの周波数がだんだん合うようにその言葉は聞きやすくなっていった。
「ハ!不覚にも1万年前自分の慢心により命を落としかけました。しかし此度復活することができました。しかしカエルの子供の身体を借りておりますが私の真の力の復活には程遠く、ほとほと困っております。
どうかわたしめに今一度、元の肉体と力を頂けないでしょうか」
「蠱惑様ヘノ再生能力ヲ割イテ迄オ前ノちからヲ戻してくれだと?」
謎の声の主の声が完全にクリアに聞こえ始めた。
「私の宿敵金剛太夫は生きておりました。あやつを放っておけば悪玉界にとっても大きな禍根となりましょう。
どうかわたくしにけじめをつけさせてください。いえその後必ずや全世界を収めてみせます。」
「今の蠱惑様の状態でお前に力を与えるのは容易ではない。
しばしここに滞在し身を置け、1年以内には元通り、いやそれ以上の力を与えてやろう。
「ハハー!ありがたき幸せ!!」
これで本来の力を戻すことができる・・・この世界は全て俺のものだ。俺がすべてを掌握してやる・・・アニサキスは心の中で打ち震えた。
古墳の祭壇の中央から穴が開き中から禍々しい呼気が溢れ出てきた。
アニサキスはその中に身をゆだねるように入っていった。
一方そのころ・・・
平静ニックは天玉界でガラクとコイルの心配をしていた。
「ガラク様・・・金剛太夫様にコイルをゆだねられて大丈夫だったのでしょうか?」
「むしろありがたい。これは私が長年待ち望んだ事じゃ。多くの武神に選ばれた子供達の中でも生え抜きの子たちを阿暁王に預けていた頃が懐かしい・・・」
ガラクからとんでもない後光が差し、純然たる善玉力が溢れ出ている
ニックはその力を浴びてあまりにも崇高な力に思わずむせび泣きそうになったが我に返った。
「しかしガラク様阿暁王は1万年前にはもういなくなったと文献で読みましたが・・・なぜ知ってるような口ぶりを?」
「そうであったな!うはは!その時の話を想像してまるで現実のように思ってしまったわい勿論古文書に書いてあったことよ」
ニックは思った・・・こんな崇高な方でもボケるのかと・・・
「ガラク様それでは私も一度地玉界の方へ行き様子を見てまいります。」
「うむ任せるぞ」
そう言ってニックは頭を下げ天井高く広いガラクの間から去っていった。
「ふぅ真王・・・まだこの世に未練があるならお主にこのガラク全てを委ねてもいいぞ」
それを聞いたガラクの中に宿る真王の魂が矢継ぎ早に言った。
「馬鹿を言え。わしはきっかけにすぎぬ。つい懐かしくなってしまってな。それにお前は今後天玉界のガラク神として多くの民を導かねばならない。わかっているであろうな?」
「わかっている。わしもいい加減に俗世への未練も枯れた。それは真王あんたのおかげだとおもっておる。理性のコントロールや善玉力の使い方。何から何まで教わった。あの苦しくて蝕むような悪威に悩まされなくもなった。
純然たる心を手に入れたような気すらしている。しかしまだあいつを見ると心の奥底の闇がまだ眠っているような気がしてな」
「コイルか・・・確かにあやつは特別じゃあやつを見て奥底に眠る力ですら鎌首をもたげて喰らおうとするだろうな。それだけお前に宿る悪威は貪欲なんじゃ」
「何度も何度もコイルの力を手にしたいという欲求にかられた。しかしなんとかここまで来た。真王のおかげじゃ。でもわしも自信がない。真王がこの身体のベースとなり変わってほしい。もし何かあってからでは遅いのじゃ真王!悪鬼ガラクは完全に死んだとは思えない。」
「悪鬼ガラクも今のお前もお前はお前じゃ。別人格とするな。受け入れろ。今の善玉力を身に着けていれば悪威も動く事は出来まい。わしの力であの当時の力も失っておる。」
「・・・いつからか、わしは天玉人になっておるのかもしれない。この悪威を受け入れたら今の魂が穢れてしまうと過剰に思っているところがある。」
「正確にはお前そのものの特殊能力粘魂が悪威に染まり完全に切り離すのが難しいからのぉ、それも今やわしの力で染め直しておるビッカビカにの!」
「わかっている。でも自分が本当は自分ではなく別の自分がいるような気がするのだ」
「受け入れてそして私が分け与えたお前の善玉の力で更に浄化するのだ。今までそうしてきたようにな。この粘魂は純粋じゃ悪威に汚染され一時はお前を狂気と化し世の中を混沌に落とし込んだ。汚染されていなければこんなに凄い力はない」
「真王、一度私がアニサキスの元へ参り戦ってもいいか?」
「急に何故じゃ」
「悪威を完全に制し、戦えるか。肩慣らしだ」
「別にかまわんが。恐らく今のお前ならアニサキスでも造作もないだろう。」
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