「どういうことですか?」
暗死は耳を疑った。
まさか悪玉鬼のピラミッドの頂点(悪玉神を除いて)であるアニサキス様を毛嫌いするいにしえの鬼に
「どうもこうもそういう事だ。私とその氷帝はアニサキスを殺す計画をずっと立てていたのだ」
暗死だけではなく、コイルも当然驚いた。
「炎帝!まさかそのような事お戯れでもおっしゃるのは」
「事実ですカエルの子よ。」
「しかし悲しい事に我らでは敵わないのもわかっていた。」
暗死は思った。
この伝説の炎帝氷帝をもってしても豪鬼アニサキスは倒すことができないのかと。
その強さは折り紙付きで、よくファベイトが昔話をするときに語っていた。
「今は亡き五帝の中でも炎帝氷帝は群を抜く強さだった」と・・・
平賀は苦々しい顔で語る。
「しかし五帝力を合わせればあの仲間の命をなんとおも思わない暴君を殺すことができると信じていた。」
「裏切りさえなければ・・・・」
絶望の顔で蚊鷹が瞳を落とす。
「裏切り・・・裏切りがあったのですか?」
「そうお前の父親の水帝にな!!!!」
突然暗死に襲い掛かる悪玉力の爆風
恐ろしすぎて反応することもできず、身体を爆風で震わせるしかなかった。
「あの計算高き水帝のおかげで風帝はアニサキスの逆鱗に触れ即刻殺された」
「俺たちはまだアニサキスを楽しませる見込みがあると活かされた。精々私を殺してみろと言い残し」
暗死はアニサキスの強さを知り尚且つそこからくる絶対的な自身にどれだけの実力を持っているのだと体の芯から凍えそうになった。
「アニサキスはどういうわけか俺たちと根本が違う。そんな中アニサキスをギリギリまで追いやった天玉人の話を聞いて、あいつに対抗できるのは天玉人しかいないと思っていた。あいつが戦った跡や痕跡を探って討伐してくれる天玉人はいないか探したものだ」
暗死は恐る恐る聞いた。
「お言葉ですが何故悪玉鬼のトップであるアニサキス様を殺そうと?」
「あいつは私達の家族を焚火に薪をくべるかの如く戦火に投げ入れ殺した。」
思い出しながら語る氷帝の表情は更に冷たく見えた。
「まだ年端も行かぬ子供達も」
「生きて帰ってきた者だけが真の強者だと言ってな」
「あの戦火の中放り込まれて鍛え上げられた悪玉鬼ですら生きて帰ってくるのは難しい」
「相手は善玉でも地玉でもない知能も理性もない魔獣・・・その敗れ方そして食い破られるさまはとても見てられなかった。」
「それでもあいつは笑っておった」
「アニサキスは仲間にも力を求め傍若無人に。」
「俺たちは決して許さない。しかしあいつの前に行くと悪玉鬼の細胞が震え服従してしまいそうになる」
「自分たちで決着をつける事すらままならず、裏切った水帝にも恨んでいない。
むしろ、よく耐えしのんだほうです。あいつもアニサキスの悪威には逆らえない。」
「あいつの内なる力である悪威を無力化できるのはもはや天玉人しかいないそこで俺たちはアニサキスを滅殺する計画を企てていた。そしてあいつの弱点や性格を知るために自ら志願し直属の部隊に配属した。」
「寝首をかかせるにはすぐそばに置かねば届くまいと高笑いされたがな。」
「謎の天玉人との戦いから十数年、ずっとそばでアニサキスを分析し、経験を積んだ俺たちは、ついにアニサキスを離れ、育て上げる天玉人を探す計画に移ろうとした矢先、目の前に金色に輝く光の戦士が現れ驚愕した。
こんな力を持っている者が天玉界にいたとはと・・・・こいつなら倒してくれるそう思った途端意識が途絶えた。」
それは阿暁の力で身体に飲み込まれ封印された瞬間だったのである。
「それから1万年も月日が流れていたとは信じられんし、アニサキスも同じくして封印されていたとは」
「そして復活も果たし、運よく我々の計画を完成させ成功してくれるのに申し分ない小僧が苦も無く目の前に現れた。」
コイルは自分の事かと脂汗をかいた。
アニサキスの強さはここの二人、いや五帝をもってしても敵わず、ましてや金剛太夫といい勝負なんてコイルに1mmも勝てる見込みがない。
「確かに残忍な方だとは思いますが・・・アニサキス様を殺せば主様への反逆となります!!」
「許せカエルの子よ。私たちはアニサキスを亡き者にした後は主様と共に悪玉界の為全力で尽くすことを誓おう」
コイルは思った。
一体どうなってるんだ悪玉界はと
でもこれに便乗して先生たちに修行をつけてもらったら確実に、いや想像以上に成長できる。
コイルはこのまま殺されるくらいなら抵抗できるくらいまで強くなっておきたい。
後悔したくなかった。
「であるならば私達苦裂のメンバーにご教授下さい!!そのお力が天玉人に流れるなど耐えられません!!」
暗死は縋る様に懇願した。
「ふふふふふはははは思い上がるなよ!お前を鍛え上げたとてアニサキスの前では生まれたての子犬も同然なのだ!!
そこまで言うのなら我を切り伏せて見よ。お前ごとき我の悪威で指一本触れさせぬぞ。」
「ならば失礼!!!」
言ったが早いか動くが早いか暗死は最大限の出力で炎帝に最高の一撃を浴びせる為の剣技を繰り出した。
その瞬間暗死の脳内は時が止まった。
正確には暗死の外観すべてが止まり、脳や臓器だけ動かされているのような錯覚に陥られた。
止まらない動悸、恐怖、絶対服従への想い
炎帝の禍々しい気が暗死を包み込んでいるようだ
まぎれもなくこの炎帝は悪玉界でも3本の指に入る実力者だ。
暗死は体中の臓器から痛みを感じるも全身固まった身体を動かすことも、苦痛で表情をゆがめる事も出来なかった。
まさに地獄だ
このまま殺してくれという気持ちになり、生みの親である絶対服従の主ファベイトにすら抱いたことのなかった恐怖が全身を駆け巡る。
とその瞬間、悪威の力が抜けた。
「うぇぇぇぇぇぇぇぇごほっごほっ・・・」
暗死は吐いた、想像を絶する力に胃の中の液体がすべてこみあげてところかまわずまき散らした。
コイルは何が起こったのかわからず目を見開いた。
あの暗死を触れさせず、このような状態にするなど信じられない。
「お前俺の悪威でそんな状態ならアニサキスの本気の悪威なら死ぬぞ」
「私が・・・・間違っておりました・・・」
「理解したかカエルの子よ。私たちは自分の恨みを晴らすために強大になるであろう敵を育てようとしているのだ。」
「なぜですか!!私達にかなわないアニサキス様に勝つようなものなら同じじゃないですか」
「元来悪玉鬼は裏切りの生き物であった。それは狡猾すぎるゆえの愚行、力を求めるがあまり、仲間をも犠牲にしてきた歴史がある。そこでこの力、悪威が導入された。」
「もともと各界の生き物もそれぞれ似たような威風を持っているものではあるがよりそこを顕著に細胞に反応するように何万年も前に主様が作り変えたと聞く、仲間同士争わぬ為、いや下克上を起こさぬために。主様自身も何万年も天玉人はおろか同族内で戦い抜いてきたそうだが、同族の減少が大きく、効率がわるかった為だという」
「実は俺はアニサキスより少し弱いだけなのだ。そこの氷帝も
しかも我らは二人で織りなす演武もある。そうなったらアニサキスなんか目ではない。しかしそれぞれがアニサキスより劣る為、悪威には逆らえない。もしアニサキスを倒すやつが現れて、そいつと戦う事になっても!悪威のないそいつにはフルパワーで挑める
我らには楽しみにしかならないのだようははははは!!!!」
この戦闘マニアがと暗死は悪態をつきかけたがぐっとこらえた。
「まぁ心配するな我らの想いが成就すれば、お前達水帝の子もみっちり修行をつけてやるわ」
「平賀、こういうのはどうだ?私がコイルを鍛える。
あなたは暗死を鍛え数か月後戦わせて勝った方が、今後の計画の主となるというのは?」
「おい!今や暗死よりコイルの方が強いではないか!うううう・・・逆に燃えるわい!!!!
受けて立とうではないか!これで負けたら蚊鷹・・・恥ずかしいぞぉ~」
「ふふふふ力の差なんて今の段階ではさほど変わりませんよ。ここから先の部分は私が少し関わった方がこの小僧が伸びると思ったからです。」
炎帝はすぐさま暗死を捕まえ、高く飛び上がりはるか向こうに飛び去った。
「では早速私と修行をするか。死ぬなよ」
氷帝はにやりと冷たく笑った
コイルは死んじゃうかもしれないと思ったのである。
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